持ち家であれば、必要に応じて玄関ドアに穴を開けて本格的な補助錠を取り付けることも可能です。しかし、賃貸マンションやアパートにお住まいの場合、退去時の原状回復義務があるため、そうした工事を行うことは原則としてできません。では、賃貸住宅では認知症の家族のひとり歩きに対して、何も対策ができないのでしょうか。決してそんなことはありません。壁やドアを傷つけることなく、安全性を高めるための工夫やグッズは数多く存在します。まず、最も手軽で広く使われているのが、工事不要で後付けできるタイプの補助錠です。ドアの上部など、ご本人の手が届きにくい場所に両面テープで貼り付けるだけのものや、ドアとドア枠の間に金具を差し込んで固定するものなど、様々な製品が市販されています。これらはホームセンターやインターネットで簡単に入手でき、取り付けも非常に簡単です。また、鍵そのものではなく、室内側のドアノブや鍵のつまみ(サムターン)に注目した対策も有効です。例えば、サムターン全体を覆ってしまうカバーを取り付ければ、単純につまみを回すだけでは開錠できなくなり、不正解錠を防ぐことができます。さらに、物理的な対策だけでなく、視覚的な工夫も試してみる価値があります。ドアそのものを「扉」として認識しにくくするために、ドア全体を覆うような風景のポスターや、一枚の布(のれん)を掛けてみるのです。これにより、ご本人がそこが出口であると気づきにくくなる効果が期待できる場合があります。ただし、これらの方法はあくまで簡易的な対策です。可能であれば、事情を正直に大家さんや管理会社に相談してみることも大切です。事情によっては、専門家による取り付けを条件に、補助錠の設置を許可してくれるケースもあります。諦めずに、できることから一つずつ試していくことが重要です。