認知症の方の安全を守るためにドアロックを設置することは、非常に有効な手段です。しかし、この行為は「安全確保」と「身体的拘束」という、非常にデリケートな倫理的問題の境界線上にあります。設置を検討する際には、ご本人の尊厳を守り、あらゆるリスクを想定した上で、慎重に進めなければなりません。最も注意すべき点は、火災や地震といった緊急時の対応です。室内から容易に開けられない鍵を設置した場合、万が一の際に逃げ遅れてしまうという最悪の事態を招きかねません。このリスクを回避するためには、例えば、外側からも鍵で開錠できるタイプの補助錠を選び、合鍵を家族や信頼できる隣人がいつでも使えるようにしておくといった対策が考えられます。また、煙や熱を感知すると自動的に解錠される、防災システムと連動したスマートロックなども有効な選択肢となるでしょう。次に、ご本人の尊厳への配慮です。なぜ鍵が必要なのかを、ご本人が理解できる言葉で、穏やかに、そして繰り返し説明する努力は続けるべきです。たとえその内容をすぐに忘れてしまっても、一方的に行動を制限するのではなく、対話を通じて進めようとする姿勢そのものが大切なのです。また、夜間の安全を確保するためにドアロックを用いるのであれば、日中の活動はできるだけ制限せず、散歩やデイサービスの利用などで、心身ともに満たされた時間を過ごせるような工夫も求められます。ドアロックは、あくまでも多角的なケアプランの中の一つの手段であり、それだけに頼るべきではありません。家族内、そしてケアマネージャーなどの専門家も交えて十分に話し合い、なぜドアロックが必要なのか、どのようなリスクがあり、どう対策するのかという点を共有し、全員の合意のもとで進めることが、倫理的な問題を乗り越えるための唯一の道筋と言えます。
ドアロック設置で忘れてはならない倫理