認知症の症状が進行するにつれて、多くのご家族が直面するのが「ひとり歩き」の問題です。かつて徘徊と呼ばれていたこの行動は、ご本人にとっては目的のある外出であることが多いのですが、周囲から見ればそれは大きな危険を伴う行動に映ります。時間や場所の感覚が不確かになり、自宅への帰り道が分からなくなってしまう。真夏や真冬の過酷な環境下で長時間さまよったり、交通事故に遭ったりする危険性も決して低くはありません。こうした命に関わるリスクから大切なご家族を守るため、最後の物理的な安全策として重要になるのが、玄関のドアロックなのです。ドアロックというと、どこか閉じ込めるような響きがあり、設置に罪悪感を覚えるご家族は少なくありません。しかし、これは決して罰や拘束ではなく、ご本人の安全を確保するための積極的な「保護」であると捉えることが大切です。特に、夜間帯のひとり歩きは、介護するご家族の心身を極度に疲弊させます。いつ出て行ってしまうか分からないという不安から、夜もろくに眠れず、心身ともに追い詰められてしまうのです。適切なドアロックを設置することは、ご本人の安全を守ると同時に、介護者の精神的な負担を軽減し、穏やかな気持ちで介護を続けるための支えにもなります。もちろん、日中はデイサービスを利用したり、一緒に散歩に出かけたりと、ご本人の活動性を尊重する工夫は不可欠です。その上で、どうしても目が行き届かない時間帯の安全を確保する手段として、ドアロックは現代の認知症介護において極めて重要な役割を担っているのです。